札幌地方裁判所小樽支部 平成7年(ワ)81号 判決 2000年2月08日
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)
堀井建商株式会社
右代表者代表取締役
堀井俊男
右訴訟代理人弁護士
北潟谷仁
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)
菊池信彦
同
菊池泉
右両名訴訟代理人弁護士
柴田誠一
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一五万円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告は、被告菊池信彦に対し、金一二五万六七五六円、被告菊池泉に対し、金一二五万六七五六円及び右各金員に対する平成六年一二月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 原告及び被告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 本訴事件
被告らは、原告に対し、連帯して金六一七万七六五三円及びこれに対する平成七年七月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 反訴事件
原告は、被告らに対し、金一三四二万六五四七円及びこれに対する平成六年一二月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告らから住宅の新築工事を請け負い、工事を行った原告が、被告らに対し、未払分の請負代金及び立替金の支払を請求し(本訴事件)、これに対して、被告らが、原告の行った工事に瑕疵があると主張して、原告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求した(反訴事件)事案である。
一 前提となる事実(すべて争いのない事実である。)
1 原告は、建築工事請負等を業とする株式会社である。
2 原告と被告らは、平成五年六月八日、次のとおり建築請負契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
(一) 注文者 被告ら
(二) 請負人 原告
(三) 工事の目的 住宅新築工事(木造家屋)
(四) 工事の場所 北海道小樽市望洋台<番地略>
(五) 工期 平成五年六月二六日から同年一〇月三一日まで
3 原告は、平成五年六月二六日、右工事に着工した。
4 被告らは、本件契約の締結後、原告に対し、追加工事として玄関フードの設置を注文し、原告は、この追加工事も行った。
5 原告は、平成五年一〇月一〇日、右3及び4の工事(以下「本件工事」という。)を完了し、即日完成した建物(以下「本件建物」という。)を被告らに引き渡した。
6 原告は、本件工事について、被告らのために、建築確認申請料、登記手続費用、住宅金融公庫用火災保険料等合計一〇二万四四五三円を立て替えた。
7 被告らは、これまでに、原告に対し、本件工事代金及び右6の立替金のうち一四八〇万円を支払った。
二 主要な争点
1 工事代金の合意内容
(一) 原告の主張
本件契約の代金についての原告と被告らとの合意は、代金は一九五〇万円とし、立替金や追加工事がある場合は、その金額を加算するというものであった。
(二) 被告らの主張
本件契約について、平成五年六月八日に原告から交付された見積書には、施工を予定していなかった一階和室の床の間の施工分として、一五万円が計上されていた。そこで、被告菊池信彦(以下「被告信彦」という。)がその旨を指摘したところ、原告は過誤を認め、原告及び被告らは予定代金一九五〇万円から右一五万円を控除することで合意した。
したがって、本件契約の代金についての原告と被告らとの合意は、代金は一九三五万円とし、立替金や追加工事がある場合は、その金額を加算するというものであった。
2 追加工事の代金
(一) 原告の主張
原告と被告らとは、当初、代金二〇万円でポーチに屋根をつける旨合意していたが、被告らの希望で右屋根をポーチから九〇センチメートル出すことにした。この際、原告と被告らは、右代金について、出来高払とすることに合意した。原告が行った玄関フードの工事の出来高は、四五万円三二〇〇円である。
(二) 被告らの主張
被告らは、代金を二〇万円として、玄関フードの追加工事を注文した。
3 瑕疵の存否と損害
(一) 被告らの主張
(1) 本件建物には、別紙一覧表の被告らの主張欄に記載したとおりの瑕疵が存在する。
右瑕疵は、梁という躯体部分に及んでいることから、これを完全に修補するためには、建替えに近い修補をするのが実際的である。これに要する費用は、一七二〇万一〇〇〇円であり、被告らは、右相当額の財産的損害を被った。
なお、右瑕疵を修補するために要する費用を、個々の瑕疵について算定すると、別紙一覧表の被告らの主張欄に記載したとおりであり(ただし、別紙一覧表番号19の瑕疵については、これによる損害は契約に従って施工した場合の工賃と、実際に施工された工事の工賃との差額である。)、その合計は七四四万一四三五円となるが、これは最低限の見積りである上に、実際に修補工事をする場合には、これ以上の費用が必要となる。
原告が右の瑕疵のある本件建物を建築し、瑕疵のあるまま被告らに引き渡したことにより、被告らは多大な精神的苦痛を被った。瑕疵の存在及びその修補工事により本件建物の耐用年数が短縮したり、市場価値が低下することや、修補工事を行うためには被告らが一時転居するなどの負担を強いられることをも考慮すれば、右精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。
(2) 被告らは、平成六年一二月二日、原告を相手方として、北海道建設工事紛争審査会に対して、本件建物の瑕疵による損害賠償として一七二〇万一〇〇〇円の支払を求める調停を申請し、右損害金債権のうち五七七万四四五三円分について、原告の請負代金及び立替金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(3) 瑕疵修補請求等をしない旨の合意について
被告らは、本件建物の引渡し後、原告に対し、本件建物の瑕疵を修補するよう求め、原告は、平成六年八月四日までに、その一部につき修補工事をしたが、原告と被告らが、平成六年八月四日までに終了した修補工事以上の瑕疵修補請求等をしない旨の合意をしたことはない。
(4) 除斥期間ないし消滅時効について
本件工事についての瑕疵担保責任の存続期間は、民法六三八条一項により五年であり、右は除斥期間である。
(二) 原告の主張
(1) 本件建物についての被告らの瑕疵の主張は、いずれも否認ないし争う。右の被告らの主張に対する原告の主張は、別紙一覧表の主張欄に記載したとおりである(ただし、原告が特段の主張をしていないものについては原告の主張欄を空白にしてある。)。
(2) 瑕疵修補請求等をしない旨の合意
本件建物の引渡し後、原告は被告らの求めに応じて、平成六年八月四日までに瑕疵の修補及びサービスとしての手直し工事を完了し、被告らもこれを承認した。
右はそれ以上の瑕疵修補請求等をしない旨の合意を含むものである。
(3) 除斥期間ないし消滅時効について
本件工事についての瑕疵担保責任は、民法六三七条により、平成五年一〇月一〇日に本件建物を引き渡してから一年の除斥期間の経過により消滅した。
右除斥期間の起算点を平成六年八月四日の手直し工事終了時から起算するとしても同様である。
また、仮に民法六三七条所定の期間を消滅時効と解し、さらに被告らが原告を相手方として申請した建設工事紛争調停に民事調停法一九条を準用するとしても、本件反訴請求は、右調停が平成七年四月二〇日に調停不成立で終了してから二週間以内に提起されていないから、右調停によっても時効は中断しておらず、本件反訴請求以前に右消滅時効は完成した。原告は、右の完成した消滅時効を援用する。
本件反訴請求は、いずれにしても、右の瑕疵担保責任の消滅後に提起されたものである。
第三 争点に対する判断
一 争点1(工事代金の合意内容)について
本件契約の契約書である甲第三号証には、本件契約の請負代金欄に一九五〇万円との記載が存在する。
これに対し、被告らは、平成五年六月八日に原告から交付された見積書(乙一五)には、施工を予定していなかった一階和室の床の間の施工分として一五万円が含まれており、原告と被告らは予定代金である一九五〇万円から右一五万円を控除することで合意した旨主張する。
確かに、乙第一五号証には「床の間銘木材」を一五万円とする記載が存在し、甲第五号証の7、証人丸山敦夫(以下「丸山」という。)の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、一階和室の床の間は不要であるとの被告信彦の指摘により、一階和室に床の間は作らず、その部分を物入れとしたことが認められる。
しかしながら、見積書である乙第一五号証には、合計の見積額として一九八二万七五〇〇円と記載されているところ、甲第一二号証の1、乙第一五号証及び被告信彦本人尋問の結果によれば、被告信彦と丸山との間で、右の一階和室の床の間についてのやり取りをした後、本件契約の代金の話となり、右の見積金額から値引きをして、代金を総額で一八五〇万円としたことが認められ、さらに甲第三、第四号証、第一二号証の1、乙第一五号証及び被告信彦本人尋問の結果によれば、原告と被告らは、本件契約と同時に、住宅の敷地である土地についての売買契約も締結したものであるが、本来、工事代金が一八五〇万円、住宅の敷地である土地の価格が一三五〇万円であるところ、本件契約の契約書(甲三)及び右土地の売買契約の契約書(甲四)を作成するに際して、本件契約の工事代金を一九五〇万円、右土地の代金を一二〇〇万円、別途工事代金として五〇万円としたことが認められる。
右の各事実に照らせば、乙第一五号証の見積書とは異なり、一階和室の床の間を施工しないからといって、原告と被告らの間で、工事代金の総額から見積書(乙一五)に記載されている床の間施工分の金額を控除する旨の合意が成立したものとは認め難く、かえって、右のような経過を経ながら、工事代金を一九五〇万円として本件契約の契約書(甲三)を作成している事実からは、本件契約の代金は、一九五〇万円とすることで原告及び被告らが合意したものと推認するのが相当である。
なお、原告従業員である丸山が作成した乙第七号証の2には、「減額分」として、一五万円「床柱」との記載が存在するところ、丸山は、これを被告らの主張を記載したものである旨証言するのに対し、被告信彦は、本人尋問において、これを丸山が契約違反を認めたものである旨供述するが、前記の契約書(甲三)作成までの経過に照らせば、見積書(乙一五)に記載された金額を工事代金総額からそのまま控除することは不合理であるというべきであるから、乙第七号証の2の右記載は、丸山が被告らの主張を記載したものであると認めるのが相当であり、これに反する被告信彦本人尋問の結果は採用することができない。
以上のとおり、本件契約の工事代金は一九五〇万円であると認められる。
二 争点2(追加工事の代金)について
被告らが原告に玄関フードの追加工事を注文するにあたり、原告及び被告らが、玄関フードの工事代金を二〇万円とする旨合意したことは当事者間に争いがない。
原告は、当初は代金二〇万円でポーチに屋根をつける契約であったが、被告らの希望で右屋根をポーチから九〇センチメートル出すように変更し、この際、原告と被告らが出来高払とすることに合意したと主張する。確かに、甲第一三号証及び乙第七号証の2によれば、原告が被告らに対して請求した玄関フードの工事代金が四五万三二〇〇円であったことを認めることができ、右事実によれば、玄関フードの仕様について、注文後に変更があったことを推認することができる。しかし、乙第七号証の2によれば、被告らが原告に対し、玄関フードの追加工事の代金を原告の請求額から二五万三二〇〇円を減じて二〇万円とするよう主張していることが認められ、右事実に照らせば、玄関フードの仕様変更があったからといって、原告と被告らが出来高払とすることに合意したことを推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、追加工事の代金は二〇万円であると認められる。
三 争点3(瑕疵の存否と損害)について
1 構造上の瑕疵及び施工上の瑕疵の主張について
(一) 建物の構造と大引及び梁の断面寸法(別紙一覧表番号欄1から7)
(1) 乙第二九号証及び証人井川僚二(以下「井川」という。)の証言によれば、本件建物の構造には、梁又は大引の上に柱があるもののその直下に柱又は基礎がなく、その結果、柱の荷重が柱又は基礎に伝わらずに梁又は大引自体にかかっている部分や、直下に柱がない部分で梁を他の梁に載せており、その結果、上の梁の荷重が柱に伝わらずに下の梁にかかっている部分があることが認められる。
そして、乙第一八、第二九、第三〇、第三三号証及び証人井川の証言によれば、住宅金融公庫融資住宅木造住宅工事共通仕様書北海道版の基準では、大引の断面寸法として、基礎の間隔が二七〇〇ミリメートルのときには一〇五ミリメートル×二四〇ミリメートルを、基礎の間隔が三六〇〇ミリメートルのときには一〇五ミリメートル×二七〇ミリメートルを標準とすることとされていること、本件建物の大引には、断面寸法において右の基準に満たないものが存在すること、さらに、構造計算によれば、本件建物の大引及び梁には、鑑定によって認められる日本建築学会木構造計算規準の定めを超えたたわみを生じないために必要な耐力を有するのに十分な断面寸法に満たないものが存在することが認められる。
この点につき、鑑定及び右鑑定をした証人桑原勇(以下「桑原」という。)は、本件建物の大引及び梁は規準に適合し、本件建物には特段の危険はないとの意見を述べるが、証人桑原の証言によれば、桑原は、鑑定及び証言に先立ち、本件建物の梁の断面寸法を実際に測定しておらず、また、構造上、大引及び梁にかかる荷重についての計算をせずに右意見を述べていることが認められるから、右意見は採用することができない。
なお、甲第一四号証に記載されている構造計算は、その前提となる構造及び梁の断面寸法において、乙第二九号証によって認められる実際の状態と異なっているから、これをもって、本件建物の大引及び梁が荷重に対して必要な耐力を有すると認めることもできない。
(2) ここで、乙第一号証の17、20、21、24、25、第一四号証の3、4、第二九号証及び鑑定によれば、二階子供室のクローゼット部分がゆがんでおり、壁面に貼ってあるクロスに亀裂が生じていることが認められる。
また、乙第二、第二九号証、証人井川の証言及び鑑定によれば、一階及び二階の居間、和室、寝室、書斎、子供室の各室の床が水平になっていないことが認められる。
(3) (1)及び(2)で認定した各事実に加え、乙第二九号証及び証人井川の証言によれば、大引及び梁の断面寸法不足が原因となって、本件建物の大引及び梁の一部にたわみが生じ、これによって本件建物全体にひずみが生じ、さらに(2)で認定した二階子供室のクローゼット部分のゆがみ及びクロスの亀裂を生じさせ、各室の床の水平バランスも損ねていることは、容易に認めることができる。
この点につき、鑑定は、右のクロスの亀裂は、強風により建物全体が揺れることが原因であるとの意見を述べるが、乙第二九号証及び証人井川の証言に加え、鑑定を行った桑原が、子供室が下がっていることも原因となっていると思う旨証言していることに照らせば、右のクロスの亀裂は、二階子供室付近の梁がたわみ、梁や柱が下がるのにクロスが耐えられない結果生じたものと認めるのが相当であるから、右意見は採用することができない。
(4) 右の大引及び梁の断面寸法不足に起因する本件建物のひずみは、床や部屋にゆがみを生じさせるだけでなく、通常の木造建築物が本来当然に備えるべき安全性を損なうものであって、極めて重要な瑕疵であるというべきである。
また、二階子供室の壁面のクロスに生じている亀裂は、著しく美観を損ねるものであることは明らかであり、乙第一号証の20、21、第二九号証及び鑑定によれば、右の二階子供室のクローゼットのゆがみも、使用価値を損ねるものであって、いずれも修補が必要であると認められる。
加えて、乙第二九号証によれば、建具のうち、一階台所とユーティリティの間の引戸、一階和室の押入、仏間、物入れ引戸及び開き戸、二階子供室の出入口戸、クローゼットの折戸は、本件建物のひずみに起因する著しい変形があり、修補を必要とするか、構造材の修補にともなって交換が必要になることが認められる。
さらに、床が水平バランスを欠いた状態は、使用勝手を損なうものであることは明らかであり、修補が必要であると認められる。
この点につき、鑑定は、二階子供室以外の床については許容範囲内であるとの意見を述べるが、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、一階居間の床には、3.6メートルの間で、最大で八ミリメートルの傾斜があることが認められるのであって、右意見は採用することができない。
なお、証人井川及び証人桑原の各証言によれば、建築基準法上、本件建物の規模の木造建物を建築する際には、構造計算を行うことは要求されていないことが認められるから、建築時に構造計算を行わないこと自体を瑕疵ということはできない。しかしながら、現実に建築された建物について構造計算を行った結果、建物にひずみを生じさせるような構造材の耐力不足が存在することが明らかになった場合は、右耐力不足の事実は建物の瑕疵であるといわざるを得ない。
(5) 以上のとおり、本件建物には、大引及び梁の中に必要な断面寸法に達しないものがあり、これにより建物自体にひずみが生じ、さらに本件建物が本来備えるべき安全性を損なっているという構造上の瑕疵が存在し、修補が必要であり、また、これにより、亀裂が生じている二階子供室の壁面のクロス、ゆがみが生じているクローゼット部分、水平バランスを欠いた一階及び二階の居間、和室、寝室、書斎、子供室の各室の床について修補が必要であり、さらに、一階台所とユーティリティの間の引戸、一階和室の押入、仏間、物入れの引戸及び開き戸、二階子供室の出入口戸及びクローゼットの折戸は、右建物のひずみによる著しい変形があって修補を必要とするか、構造材の修補にともなって交換が必要になることが認められる。
(二) 一階和室(別紙一覧表番号欄8)
乙第一号証の18、19、26から36、第二、第二九号証及び鑑定によれば、一階和室は部屋全体にゆがみがあること、柱の断面寸法及び均質性について不揃いであることが認められる。そして、(一)で認定した事実及び乙第二九号証によれば、右の和室全体のゆがみは、大引及び梁の中に必要な断面寸法に達しないものがあることによって生じた建物自体のひずみに加え、柱に不揃いがあることから生じたものであると認めることができる。
鑑定は、一階和室のゆがみは許容範囲内であって修補を要しないとの意見を述べるが、乙第一号証の18、19、26から32によれば、和室のゆがみにより、窓が完全に閉らなくなっていることが認められ、右事実によれば和室のゆがみは著しく、修補を要するものというべきであるから、右意見は採用することができない。
右の和室全体のゆがみは、建物の使用価値を損なうものであるから、瑕疵というべきものである。
(三) 基礎、土台及び大引(別紙一覧表番号欄9)
乙第一号証の5から8、第二、第二九号証及び証人井川の証言によれば、本件建物の基礎には基礎の上面をモルタルで平滑にする天端ならしが行われていない部分があり、大引と土台との仕口で、大引側面のモルタル詰め、金具又は受木の取付けがいずれもされておらず、加えて大引と土台の双方に凹凸を付けて組み合せる「あり掛」がない部分もあることが認められる。
鑑定は、天端ならしは完了しているとの意見を述べるが、明らかにこれに反する乙第一号証の5、6及び8に照らし、右意見は採用することができない。
乙第一七号証によれば、住宅金融公庫融資住宅木造住宅工事共通仕様書全国版の仕様では、天端ならしをすることとされていることが認められ、乙第二三号証によれば、天端ならしは、基礎と土台を密着させ、これによって土台を安定させ、荷重を土台から基礎へ平均的に伝えることを可能にするものであって、これが行われていない場合には、土台にかかる荷重が土台の一部に集中し、土台がたわんだり、土台の耐用年数が短くなることがあることが認められる。
また、乙第一八号証によれば、住宅金融公庫融資住宅木造住宅工事共通仕様書北海道版の仕様では、大引と土台の仕口は、あり掛をした上で大引受け金物又は大引の下端に受木を取り付けるか、大引の両側面にモルタルを詰めることとされていることが認められ、乙第二九号証及び証人井川の証言によれば、右の仕様は大引が移動したり収縮したりして土台から落ちることを防止するためであって、これが行われていない場合には、行われた場合に比べて大引が土台から落ちやすいことが認められる。
証人桑原の証言及び鑑定は、大引側面のモルタル詰めは意味がないとの意見を述べるが、仮に大引側面のモルタル詰めが意味のないものであるとするならば、金具又は受け木を用いるべきであるところ、右のとおり、本件建物では金具及び受木のいずれも取り付けられていない。
また、鑑定は、現実には大引は動かないとの意見を述べるが、これに反する証人井川の証言及び右で認定したとおり住宅金融公庫融資住宅木造住宅工事共通仕様書北海道版の仕様が大引が土台から落ちることを防止するための仕様を定めていることに照らし、右意見は採用することができない。
以上のとおり、本件建物には、天端ならしが行われていない部分があり、大引と土台との仕口で、大引側面のモルタル詰め、金具又は受木の取付けがいずれもされておらず、加えて、あり掛がない部分もあるところ、これらによって土台がたわんだり、土台の耐用年数が短くなることがあり、さらに大引が土台から落ちやすくなっていることが認められる。これは、本件建物が木造建築物として通常備えるべき性質を欠き、その価値も低下させるものであるから、瑕疵というべきものである。
(四) 屋根及び二階寝室の雨漏り(別紙一覧表番号欄10)
乙第一号証の14及び鑑定によれば、二階寝室の天井に雨漏りのような染みができていることが認められ、乙第二九号証及び鑑定によれば、スノーダクトに傷があること、これが原因で雨漏りが生じ、右の染みを生じさせていることが認められる。右の雨漏りは、本件建物の使用価値を損ない、耐用年数も短くするものであるから、瑕疵というべきである。
(五) 床鳴り(別紙一覧表番号欄11)
乙第二、第二九号証、証人井川の証言及び鑑定によれば、本件建物の床は床鳴りがすることが認められ、乙第二九号証によれば、その原因は、根太の断面寸法及び間隔、床下地材の厚さ、大引との取り合いの施工が不良であることであると認められる。
鑑定は、右床鳴りは許容範囲内であり修補を要しないとの意見を述べるが、右のとおり、本件建物の床鳴りは本件建物の構造や施工に起因するものであり、床鳴りは建物の居住者にとって著しく不快なものであることに鑑みれば、これが許容範囲内であると認めることはできないから、右意見は採用することができない。
右の床鳴りは、本件建物の使用価値を損なうものであるから、瑕疵というべきである。
(六) 一階床下の断熱材(別紙一覧表番号欄12)
乙第二九号証及び証人井川の証言によれば、一階床下の断熱材の押さえにアスファルトフェルトを使用していること、アスファルトフェルトを使用した場合には、断熱材であるグラスウールが室内の湿気を含んだときに、この湿気を通さず、グラスウールが湿気を含んで重くなり、この重みによってアスファルトフェルトが破れて断熱材が落下する危険があること、これに対してプラスチックネットを使用した場合には、グラスウールが室内の湿気を含んだとしても、この湿気を床下に通すことが認められる。右のとおり、断熱材の押さえにアスファルトフェルトを使用していることは、一階床下の断熱材が落下する危険を生じさせているのであるから、瑕疵というべきものである。
(七) 一階居間の出窓(別紙一覧表番号欄13)
乙第一四号証の11から13、乙第二九号証及び証人桑原の証言によれば、一階居間の出窓は、室内から室外に向って一〇ミリメートルから一六ミリメートル下がっており、水平になっていないことが認められる。
証人桑原の証言及び鑑定は、右は修補を必要とするほどではないとの意見を述べるが、出窓において、外に向かって一〇ミリメートルから一六ミリメートル下がっている状態は、明らかに使用勝手を損なうものというべきであるから、右意見は採用することができない。
一階居間の出窓の右状態は、出窓の使用価値を損なうものであるから、瑕疵というべきである。
(八) 一階和室の造作材(別紙一覧表番号欄14)
乙第一号証の37、38、第二及び第二九号証によれば、一階和室の造作材の一部にトノコで傷を隠した部分が存在し、また、修補が未了の部分が存在することが認められる。これは、内装の美観を損なうものであるから、瑕疵というべきである。
(九) 二階寝室及び子供室の幅木(別紙一覧表番号欄15、16)
乙第一号証の15、16、第二、第二九号証及び鑑定によれば、二階寝室及び子供室の幅木に、仕上げが未了の部分があることが認められる。これは、内装の美観を損なうものであるから、瑕疵というべきである。
(一〇) 玄関ホールの天井(別紙一覧表番号欄17)
乙第二、第二九号証及び鑑定によれば、玄関ホールの天井高に約五ミリメートルの不揃いがあることが認められる。しかしながら、乙第二九号証及び鑑定によれば、右の不揃いは現在の建築技能士の技術水準では避けられない範囲内のものであることが認められ、それ以上に本件建物の価値を損なうものであることを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の不揃いは瑕疵ということができない。
(一一) 階段の手すり(別紙一覧表番号欄18)
乙第一号証の41、第二、第二九号証及び鑑定によれば、階段の手すりが水平ではないことが認められる。しかしながら、鑑定は、手すりは水平とはいえないが、修補は要しないとの意見を述べ、井川は証言において、本件建物の手すりについて、水平バランスを欠いている程度が許容範囲内か否かの判断は困難であるとの意見を述べているところ、これに対して、手すりが水平バランスを欠いている程度が本件建物の価値を損なうということができる程度に至っていることを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の階段の手すりが水平バランスを欠いていることは瑕疵ということができない。
2 契約違反の主張について
(一) 請負契約において、完成した仕事が契約の内容と異なっていた場合には、その仕事は契約当事者があらかじめ定めた性質を欠くものであって、不完全なものということができるから、その箇所は一般に瑕疵であるというべきものである。
そこで、本件建物について被告らが主張する契約違反の瑕疵の存否を判断するためには、その前提として、本件契約の内容がどのようなものであったかを認定する必要があるところ、原告は、本件契約の内容は契約書(甲三)と見積書(乙一五)及び仕様書(甲六の1)によって定められたと主張する。確かに、本件契約の契約書である甲第三号証には、その一条二項に、原告は別冊図面及び仕様書に基づき工事を完成させるとの条項が存在する。しかし、前記一で認定したとおり、原告が被告らに提出した見積書の内容は提出後に変更されている上、証人丸山の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、それにもかかわらず、原告は被告らに対し、変更後の見積書を交付しておらず、本件契約の締結時にも図面及び仕様書のいずれも交付していないこと、トイレの天井につき、見積書作成以前には、ビニールクロスで施工するとの合意がありながら、見積書(乙一五)にはジプトーンと記載し、見積書提出時に気づきならが、原告側の見積書は訂正しなかったことが認められ、右各事実に加えて、原告の担当者であった丸山が、細かい点については本件契約締結の後である平成五年六月二〇日の仕様合わせで詰めればいいと考えていた旨証言していることに照らせば、見積書(乙一五)の内容がそのまま契約内容になったものということはできない。また、証人丸山の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、本件建物の完成まで、仕様書(甲六の1)が被告らに交付されていないことが認められ、右事実に照らせば、仕様書(甲六の1)の内容が契約内容になったものということもできない。かえって、右の各事実に照らせば、本件契約の内容は、書面によらない合意によって定められたものと認めることができ、見積書(乙一五)はその内容を正確に反映していないといわざるを得ない。
また、証人丸山の証言によれば、トイレの天井につき、ビニールクロスで施工するとの合意があり、見積書提出時に誤ってジプトーンと記載していることに気づきながら、そのままジプトーンで施工したことが認められ、右事実に照らせば、見積書(乙一五)のみならず、仕様書(甲六の1)や本件訴訟で証拠として提出された図面も、必ずしも本件契約の内容を正確に反映したものであるということはできない。
したがって、本件契約の内容を認定するためには、見積書(乙一五)や仕様書(甲六の1)によることなく、本件訴訟に顕れたその他の証拠によらなければならない。
そこで、以下、被告らが契約違反を主張する点につき、原告と被告らとの合意内容について各別に判断する。
(二) 基礎の高さ(別紙一覧表番号欄19)
本件建物の基礎の高さが平均五六センチメートルであることは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、基礎の高さを六〇センチメートルとすることは契約締結以前から合意しており、見積書の提出時にも原告との間で確認した旨主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、被告らの希望に対しては、サービスで可能な限り高くした旨主張し、丸山も、これに沿う証言をし、丸山が作成した甲第一二号証の2にも、これと同旨の供述部分が存在する。
そこで検討するに、乙第七号証の2及び第一五号証によれば、被告らが、本件工事後、原告に対し、基礎の高さを六〇センチメートルとする合意であったのにこれより低くなったとして、工事代金の減額を要求していること、被告信彦が、原告から提出された見積書の基礎工事の欄に、「キソ60cm」と書き込んでいることが認められ、右各事実に加えて、被告信彦が、本人尋問において、被告らが基礎の高さを六〇センチメートルとするよう希望した理由として、新聞記事や友人の建築士の助言によったと具体的に供述していることに照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、丸山の右供述には、客観的な裏付けがない上、丸山は、基礎の高さについての被告らの希望について、甲第一二号証の2には、普通より高くという言い方で、五〇から六〇センチメートルという申し入れであった旨記載しながら、証人尋問では、基礎を六〇センチメートルくらいにして欲しいという申し入れがあった旨証言しており、この供述の相異を合理的に説明する事情もないから、丸山の供述は、これを採用することができない。
よって、基礎の高さについては、原告と被告らの間で、六〇センチメートルとする合意があったものと認めることができる。したがって、基礎の高さは、本件契約に違反しているものと認められる。
なお、被告信彦本人尋問の結果によれば、本件工事の途中に、被告信彦が、基礎の高さを平均で五六センチメートルとすることに同意していることが認められるが、これは、右時点で鉄筋を組んでしまっており、工事のやり直しが困難であったために、工事代金を減額して調整することを前提として同意したものであることも認めることができるから、被告らが基礎の高さを五六センチメートルに変更することに単純に合意したものと認めることはできない。
(三) 床下及び壁の断熱材の厚さ(別紙一覧表番号欄20、21)
一階及び二階の床下並びに壁の断熱材の厚さがいずれも二〇〇ミリメートルに満たないことは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、断熱材の厚さは、二〇〇ミリメートルと合意しており、見積書の提出時にも原告との間で確認した旨主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、断熱材の厚さについては、一〇〇ミリメートルとする合意であったと主張し、丸山も、被告らから二〇〇ミリメートルにするようにとの希望はなかったと証言し、丸山が作成した甲第一二号証の2にも、これと同旨の供述部分が存在する。
そこで検討するに、乙第七号証の2、第一五号証及び被告信彦本人尋問の結果によれば、被告らが、本件工事後、原告に対し、断熱材の厚さが足りないとして、工事代金の減額を要求していること、被告信彦が、原告から提出された見積書の断熱防湿工事の項で、グラスウールにつき、一階及び二階の床下並びに壁について、厚さ一〇〇ミリメートルと記載されている部分から矢印を引いて、その先に二〇〇ミリメートル以上と書き込み、さらに「以上」の部分を線で抹消していることが認められ、右各事実に加えて、被告信彦は、本人尋問において、原告が見積書を被告らに提出した際、被告信彦が断熱材の厚さについて二〇〇ミリメートル以上のはずである旨指摘したのに対し、丸山が、二〇〇ミリメートルで勘弁して欲しい旨述べたので、見積書への書き込みのうち「以上」との部分を消した旨供述しているところ、これが右の見積書への書き込みと符合すること、被告信彦が、本人尋問において、床下及び壁の断熱材の厚さを二〇〇ミリメートル以上にして欲しいと原告に希望した時の丸山の反応として、「壁はグラスウール板三八ミリを使って二〇〇ミリの厚さを出したい。他社と違って、パネルを二枚使用しそれをサンドイッチのようにする方法で施工している」と述べ、被告らもこれに同意したと具体的に供述していることに照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、被告らから二〇〇ミリメートルにするようにとの希望はなかった旨の丸山の前記供述には、客観的な裏付けもなく、また被告信彦の右供述よりも信用すべき事情も存在しないから、これを採用することはできない。
よって、一階及び二階の床下並びに壁の断熱材の厚さについては、いずれも二〇〇ミリメートルとし、ただし、壁については、グラスウールの断熱ボードを二枚用い、これで断熱材を挟む方法で施工し、断熱材自体は一〇〇ミリメートルとすることもできる旨の合意があったものと認めることができる。
さらに進んで、本件建物の壁が、グラスウールの断熱ボードを二枚用い、これで断熱材を挟む方法で施工されているか否かにつき判断する。
証人丸山の証言によれば、本件建物を建築する際に用いられた図面は原告作成の甲第五号証の7であると認められるところ、その仕様書欄に、外壁の下地として断熱ボード厚さ6.0ミリメートル貼と記載されていること、また原告作成の乙第一六号証には、外壁部分には6.0ミリメートルの断熱ボードが一枚用いられているように記載されていることからすれば、本件建物の壁に用いられている断熱ボードは、厚さ6.0ミリメートルのものが一枚であると認めることができる。
したがって、一階及び二階の床下並びに壁の断熱材の厚さ又は施工方法は、本件契約に違反しているものと認められる。
(四) 床下地材(別紙一覧表番号欄22、23)
床下地材として、厚さ9.5ミリメートルのセンイ合板が用いられていることは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、床下地材は厚さ一二ミリメートルのコンパネとすることで合意しており、見積書の提出時にも原告との間で確認した旨主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、床下地材は厚さ9.5ミリメートルのセンイ合板とする合意であったと主張し、丸山も、これに沿う証言をする。
そこで検討するに、乙第七号証の2及び第一五、第一六号証によれば、被告らが、本件工事後、原告に対し、コンパネから床下地材を変更したとして、工事代金の減額を要求していること、被告信彦が、原告から提出された見積書の内装工事の項で、センイ合板(下地)厚さ9.5ミリメートルと記載されている部分から矢印を引き、その先に床はコンパネ一二ミリメートル下地と書き込んでいること、原告が作成したことについて当事者間に争いのない乙第一六号証では、床下地材に厚さ一二ミリメートルのコンパネが用いられているように記載されていることが認められ、右各事実に照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、丸山の前記証言には、客観的な裏付けがない上、丸山が作成した甲第一二号証の2には、「見積書コンパネ12m/m」との記載があるところ、右証言との矛盾について合理的説明もないから、これを採用することができない。
よって、床下地材については、厚さ一二ミリメートルのコンパネとする合意が存在したと認めることができる。したがって、床下地材の材質及び厚さは、本件契約に違反しているものと認められる。
(五) 一階和室の天袋(別紙一覧表番号欄24)
一階和室に、天袋が施工されていないことは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、一階和室に天袋を作るとの合意が存在した旨主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、一階和室に天袋を作るという合意は存在しなかったと主張し、丸山が作成した甲第一二号証の2にも、これに沿う部分が存在する。
そこで検討するに、被告信彦は、本人尋問において、平成五年五月初めころ、当時の被告らの自宅において、丸山に対し、当時の自宅の和室にあった天袋を見せ、このように作って欲しいと言ったと供述するが、右供述には客観的裏付けがない上、原告が被告らに提出した見積書(乙一五)には、天袋についての記載も被告らの書き込みもないこと、さらに本件建物の引渡し後の被告らの要求を丸山が記載した乙第七号証の2にも、天袋についての記載が存在しないことからすれば、被告信彦の右供述を直ちに採用することはできず、他に天袋を作るとの合意があったことを認めるに足りる証拠は存在しない。
よって、一階和室の天袋については、これを作るとの合意が存在したと認めることはできない。したがって、一階和室に天袋が作られていないことは、本件契約に違反しているものとは認められない。
(六) 二階子供室の間取り及び窓(別紙一覧表番号欄25、26)
二階子供室の北東部分が扉つきクローゼットとなっており、また東側に窓がないことは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、北東部分はクローゼットではなく開放スペースとし、東側に窓をつける旨の合意が存在した旨主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、北東部分はクローゼットとし、東側には窓をつけない旨の合意であったと主張し、証人杉山聡(以下「杉山」という。)も、これに沿う証言をする。
そこで検討するに、甲第一二号証の2、乙第七号証の2、第八号証、証人丸山の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、本件契約締結以前に原告が作成した図面(乙八)には、二階子供室の間取り及び窓の配置として、被告ら主張のとおりの記載があること、被告らが、本件工事後、原告に対し、二階子供室の間取りの誤りと窓の不設置を理由として、工事代金の減額を要求していること、被告らが、本件工事中に、二階子供室の間取りと窓の不設置について、丸山を呼び出して指摘していることが認められ、右各事実に加えて、被告信彦が、本人尋問において、二階子供室の北東部分を開放スペースとし、東側に窓をつけるよう希望した理由として、右開放部分にベッドを入れ、そこで寝ている子供の顔に朝日が当たるようにしたかったと具体的に供述していることに照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、杉山は、平成五年六月二〇日の仕様合わせの際、被告らから、子供室のクローゼットの中を半分に仕切り、右側には棚を付け、左側にはポールをつけて服を掛けられるようにして欲しいと言われ、その旨甲第六号証の2の図面部分に書き込んだ旨証言し、甲第六号証の2にもこれに沿う書き込みが存在する。しかしながら、同日の仕様合わせに同席していた丸山が、本件工事中、被告らに二階子供室の間取りが違う旨指摘されながら、その内容を覚えていない旨証言していることに照らすと、杉山の右証言を直ちに採用することはできず、他に北東部分をクローゼットとするとの合意があったことを認めるに足りる証拠はない。
よって、二階子供室については、その北東部分はクローゼットではなく開放スペースとし、東側に窓をつける旨の合意が存在したと認めることができる。したがって、二階子供室の間取り及び東側に窓がついていないことは、本件契約に違反していると認められる。
なお、原告は、二階子供室の北東部分をクローゼットとし、東側に窓をつけないことについて、本件工事の現場で被告らの了解を得ていると主張し、右事実は当事者間に争いがないが、被告信彦本人尋問の結果によれば、右了解は、丸山から、杉山が新婚旅行でいないからやり直せないと言われたため、工事代金を減額して調整することを前提として同意したものであることを認めることができるから、被告らが、二階子供室の北東部分をクローゼットとし、東側に窓をつけないこととすることに単純に合意したものと認めることはできない。
(七) 階段の手すり(別紙一覧表番号欄27)
階段の手すりが壁状のものであること及び被告らが原告に対し、本件契約の締結以前に、棒状の手すりにすることを希望したことは当事者間に争いがない。
この点につき、被告らは、手すりを棒状のものとする合意があったと主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、手すりは壁状のものとする合意があったと主張し、丸山も、これに沿う証言をし、丸山が作成した甲第一二号証の2にも、これと同旨の部分が存在する。
そこで、検討するに、乙第七号証の2によれば、被告らが、本件工事後、原告に対し、階段の手すりの変更を理由として、工事代金の減額を要求していることが認められ、右事実に加えて、被告信彦が、本人尋問において、手すりを棒状のものにしたいと原告に希望した時の丸山の反応として、「同意見です。うちのよりアメリカ製の格好いいのがあるから、それをつけましょう」と言ったと具体的に供述していることに照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、丸山は、被告らが希望した棒状の手すりは、建物の構造上無理であったので、被告らも了解の上付けなかった旨証言し、甲第一二号証の2にもこれと同旨の部分が存在する。しかしながら、鑑定によれば、材質の程度は別として、乙第一号証の39のような棒状の手すりを取り付けることは可能であることが認められるから、丸山の右供述は採用することができない。
よって、階段の手すりについては、乙第一号証の39のような棒状手すりにする旨の合意があったと認めることができる。したがって、階段の手すりの形状は、本件契約に違反していると認められる。
なお、原告は、階段の手すりを壁状のものとすることについて、本件工事の現場で被告らの了解を得ていると主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、被告信彦本人尋問の結果によれば、被告信彦が丸山に対し、施工された階段の手すりが契約と異なっていることについて、工事代金を減額して調整することを求めていることが認められる。
(八) 下駄箱の奥行き(別紙一覧表番号欄28)
下駄箱の奥行きが、約二八センチメートルであることは当事者双方に争いがない。
この点につき、被告らは、奥行きを四〇センチメートルとする合意が存在したと主張し、被告信彦本人尋問の結果中にも、これに沿う供述が存在する。
これに対し、原告は、丸山の靴(二八センチメートル)が入る程度の奥行きにする旨の合意であったと主張し、丸山もこれに沿う証言をし、丸山が作成した甲第一二号証の2にも、これと同旨の供述部分が存在する。
そこで検討するに、乙第七号証の2によれば、被告らが、本件工事後、原告に対し、下駄箱に不具合があるとして、工事代金の減額を要求していることが認められ、右事実に加えて、被告信彦が、本人尋問において、奥行きを四〇センチメートルとするよう希望した理由として、四〇センチメートルあればスキー靴が入るからであると具体的に供述していることに照らせば、被告信彦の供述は、これを信用することができる。
これに対し、丸山の右供述には、客観的な裏付けがない上、被告らが居住するための住宅の下駄箱の奥行きについて、原告の従業員である丸山の靴が入る程度とすることは不合理であり、さらに、本件工事の現場担当者であった杉山が、下駄箱を作成する以前に、丸山の靴が入る程度とすることは聞いていないと証言していることに照らせば、これを採用することはできない。
よって、下駄箱の奥行きについては、これを四〇センチメートルとする合意があったものと認めることができる。したがって、下駄箱の奥行きは、本件契約に違反したものと認められる。
なお、原告は、被告らの指摘で修補をした後、被告らの了解を得たと主張し、右事実は当事者間に争いがないが、被告信彦本人尋問の結果によれば、右了解は、丸山から、完全には直しようがないと言われたため、工事代金を減額して調整することを前提として同意したものであることを認めることができるから、被告らが、下駄箱の奥行きを二八センチメートルに変更することに単純に合意したものと認めることはできない。
3 瑕疵による財産的損害
(一) 右1及び2で認定した瑕疵により、被告らが被った財産的損害につき判断する。
請負工事の目的物に瑕疵が存在した場合には、注文者は、請負人に対し、修補に過大な費用を要する場合を除き、瑕疵を修補するよう請求し、又は、これに代えて損害賠償を請求することができるのであるから、請負人が注文者に対して賠償すべき財産的損害は、瑕疵の修補に過大な費用を要しない場合には、右瑕疵の修補に要する費用相当額であり、瑕疵の修補に過大な費用を要する場合には、右瑕疵が存在することにより低下した目的物の価値相当額であるというべきである。
そして、本件建物のように、多数の瑕疵が存在する場合に、そのうち複数の瑕疵を同時に修補し、修補工事のうち共通する部分の重複を免れることができるならば、修補に要する費用は、右のように同時に複数の瑕疵を修補することを前提として算定すべきである。
被告らは、本件建物の瑕疵を完全に修補するためには、建替えに近い修補をすることが実際的であると主張するが、修補に要する費用は、瑕疵ごとに算定するのが相当であるから、この点に関する被告らの主張は採用することができない。
(二) 右を前提として、本件建物の瑕疵により、被告らが被った財産的損害について検討する。
乙第二九、第三六号証及び鑑定によれば、1(一)のうち一階床下及び一階床にかかる分(別紙一覧表番号欄1、7)、(二)(同8)、(三)(同9)、(五)(同11)、(八)(同14)及び2(四)のうち一階床下にかかる分(同22)については、一階床の工事として同時に修補工事を行うことができ、これには一三七万二一一九円を要すること、1(一)のうち二階床下、二階床及び二階子供室にかかる分(同2、4、5、7)及び2(四)のうち二階床下にかかる分(同23)については、二階床の工事として同時に修補工事を行うことができ、これは一三二万五三二四円を要すること、1(一)のうち二階小屋裏にかかる分(同3)の修補工事には一六万三二八二円を要すること、1(一)のうち建具(同6)の修補工事には三八万八一〇四円を要すること、1(四)(同10)及び(九)のうち二階寝室にかかる分(同15)については、二階寝室及び屋根の工事として同時に修補工事を行うことができ、これには三八万六二五〇円を要すること、1(六)(同12)及び2(三)のうち床下にかかる分(同20)については、床下断熱材の工事として同時に修補工事を行うことができ、これには九万三八一二円を要すること、1(七)(同13)の修補工事には二二万五五八二円を要すること、1(九)のうち二階子供室にかかる分(同16)及び2(六)のうち二階子供室の間取りにかかる分(同25)については、二階子供室の工事として同時に修補工事を行うことができ、これには二五万七五〇〇円を要すること、2(三)のうち壁にかかる分(同21)の修補工事には二六一万九七〇二円を要すること、2(六)のうち窓にかかる分(同26)の修補工事には二〇万九〇九〇円を要すること、2(7)(同27)の修補工事には一一万二二七〇円を要すること、2(八)(同28)の修補工事には一〇万九一八〇円を要することが認められる。
また、2(二)(別紙一覧表番号欄19)の瑕疵につき、基礎の高さを変更するためには、基礎以外の建物すべてを移動する必要があり、これに要する費用は著しく多大なものとなることは明らかであるから、右の瑕疵について被告らが原告に対して賠償を請求することができる損害は、右瑕疵が存在することにより低下した目的物の価値相当額にとどまるというべきである。そして、鑑定によれば、契約のとおりに施工した場合の費用と、実際に施工された分の費用の差額が二万五七五〇円であることが認められ、右金額は2(二)の瑕疵により低下した目的物の価値に相当するということができるから、右瑕疵により被告らが被った財産的損害は、二万五七五〇円であると認めることができる。
(三) なお、被告らは、現実に修補工事を行う場合には、個別に見積もる以上の費用が必要となる旨主張し、右事実は乙第二九号証及び証人井川の証言によって認めることができるが、同時に、右各証拠によれば、現実にどの程度の費用が必要になるかは実際に修補工事を行わなければ算定することができず、現時点では判明しないことも認められるから、右事実は後記4の慰謝料の算定において考慮することとする。
(四) 以上によれば、原告が、瑕疵担保責任に基づき、被告らに対して賠償すべき財産的損害は、七二八万七九六五円であるということができる。
4 慰謝料
被告らは、原告が瑕疵のある本件建物を建築し、瑕疵のあるまま被告らに引き渡したことにより、被告らは精神的苦痛を被ったと主張する。
物の瑕疵による損害は財産的損害を主とするものであるから、一般には、財産的損害が賠償されれば、精神的損害も回復されるのが通常であると考えられる。しかしながら、精神的損害が多大であって、財産的損害が賠償されてもなお、回復されない精神的損害が残存する場合には、これを回復するための慰謝料の請求も認められるべきと解するのが相当である。
そこで検討するに、本件建物は新築の住居でありながら、1(一)で認定したとおり既に安全性を欠いており、建物の安全性を確保するために、大引及び梁の交換も含めた修補が必要であること、大引及び梁の交換も含めた修補工事を行う場合には被告らとその家族が一時転居する必要があることなどからすれば、被告らは、原告が瑕疵のある本件建物を建築し、被告らに引き渡したことによって、多大な精神的苦痛を被ったものと認めることができ、3で認定した財産的損害を賠償されても、なお回復されない精神的損害があるというべきである。
そして、これまで認定した本件建物の瑕疵の程度に加え、3で述べたとおり、現実に修補工事を行う場合には3で認定した金額よりも多額の費用が必要になると見込まれるなど、本件訴訟に顕れた一切の事情を考慮すると、被告らの右精神的苦痛に対する慰謝料は、被告ら各自につき五〇万円、合計一〇〇万円とするのが相当である。
5 相殺
被告らが、平成六年一二月二日、原告を相手方として、北海道建設工事紛争審査会に対し、本件建物の瑕疵による損害賠償として一七二〇万一〇〇〇円の支払を求める調停を申請し、右損害金債権のうち五七七万四四五三円分について、原告の請負代金及び立替金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。
6 瑕疵修補終了の合意
原告は、本件建物を被告らに引き渡した後、被告らの求めに応じて、平成六年八月四日までに修補及び手直し工事を完了し、被告らもこれを承認したが、右は被告らがそれ以上の瑕疵修補請求等をしない旨の合意を含むものであると主張する。
確かに、甲第一〇号証、証人丸山の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、平成六年八月四日、被告信彦が「念書」(甲一〇)の下部余白部分に、修補工事が完成したことを確認する旨を書き込んで署名したことが認められ、丸山は、これですべての修補が終わったと理解した旨証言する。
しかしながら、乙第七号証の1、2、証人丸山の証言及び被告信彦本人尋問の結果によれば、右と同じ日に、被告らが丸山に対し、本件建物の工事の不備を指摘して工事代金の減額を要求していることが認められ、右事実に照らせば、被告信彦が念書の下部余白部分に修補工事が完成したことを確認する旨を書き込んで署名したからといって、被告らがそれ以上の瑕疵修補請求等をしない旨合意したと認めることはできない。
したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。
7 瑕疵担保責任の期間
原告は、本件工事についての瑕疵担保責任は、民法六三七条により一年の除斥期間の経過によって消滅したと主張するが、同法六三八条一項は、土地の工作物の請負人はその工作物については引渡しの後五年間その担保の責に任ずる旨規定しており、右の土地の工作物には建物も含まれるものと解するのが相当であるから、本件工事についての瑕疵担保責任の存続期間は、引渡しから五年間であると解すべきである。また、右期間は除斥期間と解すべきであるから、右期間内に、裁判上又は裁判外で、注文者が請負人に対して瑕疵修補請求ないし瑕疵修補に代わる損害賠償請求を行えば、その時点から改めて消滅時効が進行するものというべきである。
ここで、本件工事の引渡しが平成五年一〇月一〇日に行われたこと及び平成六年八月四日までに、被告らが原告に対して瑕疵の修補を請求したことはいずれも当事者間に争いがなく、また本件反訴請求が平成七年九月五日に提起されたことは本件記録上明らかである。
右各事実によれば、本件反訴請求提起の時点で、原告の瑕疵担保責任が除斥期間の経過又は消滅時効の完成によって消滅していないことは明らかであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。
第四 結論
以上によれば、被告らが原告に対して支払うべき本件契約の代金及び立替金のうち、五九二万四四五三円が未払いとなっており、一方で原告は被告らに対し、合計八二八万七九六五円の損害を賠償すべきであったところ、右各債権のうち、五七七万四四五三円が相殺により相互に消滅したことが認められる。
よって、原告の本訴請求は、主文第一項記載の限度で理由があるから右の限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、被告らの反訴請求は、主文第二項記載の限度で理由があるから右の限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条及び六四条を、仮執行の宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・宮森輝雄、裁判官・内野俊夫、裁判官・守山修生)
別紙<省略>